ビリー・ジョエルの名曲 ”This Night / 今宵はフォーエヴァー” は、ベートーヴェンをオマージュした作品。原曲のピアノ・ソナタ ”悲愴” と聴き比べます。
偉大な作曲家への敬愛を語り、レッド・ツェッペリンのデビュー曲を第九に例える、ビリー・ジョエルのインタビューも。(文中敬称略)
”This Night / 今宵はフォーエヴァー”はベートーヴェンのピアノソナタ「悲愴」の一節を利用
1982年発売の「ナイロン・カーテン(The Nylon Curtain)」は傑作アルバムながら、ベトナム反戦歌を含む、やや重い内容。
翌1983年リリースのアルバム「イノセント・マン(An Innocent Man)」はR&Bやドゥーワップの色が濃い曲が中心でした。
前作とはうって変わって思いっきりポップな路線に転換。ビリー・ジョエルのルーツを散りばめたような大ヒットアルバムとなりました。
ライナーノーツにも「レコード会社は『今度のアルバムは売れるぞ』と小躍りした」ということが書かれていたのが印象的でした。
ベートーヴェンのピアノソナタ第8番「悲愴」第2楽章をポップス曲に
アルバム「イノセント・マン」の中の1曲「This Night(邦題:今夜はフォーエヴァー)」は、途中のサビ部分がベートーヴェンのピアノソナタをそのまま利用していることで話題になりました。
同曲が『悲愴』と同じ旋律を使っている部分を、ビリー・ジョエルの公式YouTubeチャンネルのオーディオ動画で聴いてみましょう。
Billy Joel – This Night (Audio)
引用しているのはピアノソナタ第8番「悲愴」第2楽章の部分。ピアノ演奏による同じメロディーパートを聴いてみましょう。
Beethoven: “Pathetique” Sonata, 2nd movt. 悲愴ソナタ 2 楽章 | Cory Hall, pianist-composer
ライナーノーツとクレジットにはっきり「作曲ベートーヴェン」と書かれていた
ネット上には「ビリー・ジョエルの盗作? パクり?」のような記事やQ&Aが散見されます。
しかし、当時のLPアルバムのライナーノーツでは、ビリー・ジョエルは「子どもの頃に聴いていたベートーヴェンの曲を使った」という内容を書いていました。クレジットにも作曲者として「ベートーヴェン」の名前がはっきりと書いてありました。
An Innocent Man / Billy Joel ライナーノーツから引用
この「This Night」という曲は、ビリー・ジョエルのベートーヴェンへのオマージュなのです。アルバム「イノセント・マン」がビリー・ジョエルのルーツとも言える曲やジャンルをモチーフとしているので、不思議なことではありません。
ニューヨーク・タイムズのインタビューで「ビリー・ジョエルにとってのベートーヴェン」を語る
マディソン・スクエア・ガーデン100回公演を記念して、2018年7月25日のニューヨーク・タイムズ(The New York Times)に掲載されたビリー・ジョエルのロングインタビュー。ビリー・ジョエルにとってのベートーヴェンの存在を語る場面があります。
父親は暇があるとベートーヴェンを演奏していた
but his father, a brooding man who played Beethoven in his spare time, left the family and moved to Vienna.
彼(ビリー・ジョエル)の父親~余暇にはベートーヴェンを演奏していた陰気な男~は、家族を残してウィーンへ引っ越してしまった。
44歳のときにベートーヴェンの交響曲を聴き始めてショックを受けた
In the early ’90s, I started listening to the Beethoven symphonies,
and I said: “I haven’t done [expletive]. This is great.”
I was, let’s see, 44 years old. It was time to do something else.
I wasn’t going to make albums just because the record company had a contract on me.
’90年代の初めに、ぼくはベートーヴェンの交響曲を聴き始めたんだ。
そしてぼくは言ったよ。「オレは何もしてない。くそっ。最高じゃん」ぼくが44歳のときだ。
何か他のことをするべき時期だった。レコード会社に散々言われても、ぼくはアルバムを作る気がしなかった。
名声もお金も手に入れた。100回公演や名誉ある賞も凄いよね。でもぼくはベートーヴェンじゃない。
ビリー・ジョエルは「今でも曲は書いている。でも録音はしないんだ」と語りました。
そして「その曲を、他の人は聴くことができないことについては気にしないのか?」という質問に対しては、次のように答えます。
I’ve had more fame than I deserve. I thought I was going to make a living, and it turned out,
I got a hundred shows at Madison Square Garden, Kennedy [Center] Honors, the Gershwin [Prize], da da da.
It’s pretty cool, but I’m not Beethoven.
ぼくは身に余る名声を得て、生活にも困ることはなくなった。
マディソン・スクエア・ガーデンで100回公演した、ケネディーセンター名誉賞やガーシュウィン賞も獲得した。
凄いことだよね。でもぼくはベートーヴェンじゃないんだ。
アルコール依存症を克服するためにベートーヴェンに祈りを捧げる
I don’t buy into the higher-power thing. The closest thing I have to religion is music. I worship at the altar of Beethoven.
ぼくは神頼みグッズを買い込んだりしないよ。最も身近で信ずるべきは音楽なんだ。ぼくはベートーヴェンの祭壇を崇拝しているんだ。
レッド・ツェッペリンを聴いた衝撃をベートーヴェンの第九にたとえる
また、レッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)のファンであったビリー・ジョエル。
下の動画では、レッド・ツェッペリンのファーストアルバムを聴いたときの衝撃を次のようにコメントしています。
It was like hearing Beethoven’s ninth symphony for the first time.
それはまるでベートーヴェンの交響曲第9番を初めて聴いたときのようだった。
Billy Joel Recalls Hearing Led Zeppelin For The First Time // SiriusXM // The Billy Joel Channel